March 06, 2005

Eternal Ballads に寄せて 最終章

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女性シンガーの名バラードを集めた「Eternal Ballads」。女性の心模様を浮き上がらせる、最後の4曲を紹介する。

M-12「カボシャール」 田中好子
東京25時。数時間前に出会った男と女が肌を触れ合わせたあとで。
男は思う。女なんてちょろいものさと。その自信が幻想であることに気づかない。
女は思う。男なんて簡単なものさと。化粧としぐさと香りの罠に、男を絡めとっただけと。
男は女の媚薬の虜になったにすぎない。カボシャールは魅惑の香水。その意味は
「強がり」。強気な男こそが、この媚薬におちていくのだ。
大人の一夜をミステリックに表現した作詞「与詞古」(田中好子)の才能が感じられる。

M-13「窓」 桜田淳子
叶わない恋。報われない恋。思いを寄せる彼は、いつも恋人と一緒だ。そして私は
窓越しにそんな二人を見つめている。ああ、静かに燃え上がる恋心を、誰に託せば
いいのだろう。
幸せそうな二人。祝福されている二人。窓越しの二人の姿が次々と目に浮かぶ。
窓。どうして自分は窓の向こうに行けないの?彼の心の窓は私には開けられないの?
思い巡らす度に、記憶に現れる窓越しの二人の影…。
シャンソン調の楽曲が、悲しい片想いの心情を情感豊かに表現して心に染みていく。

M-14「シルエット・ロマンス」 大橋純子
女は恋するほどに美しくなる。だから恋を重ねた大人の女は、必然的に美しくなる。
そしてより美しくなるために、恋をしようとする。目的と結果が倒錯していくのだ。
ゆえに一度恋におちたら、美しくあるために、女は恋に一途になる。
まるで恋の海の中に身を沈め、陶酔するかのように。貪欲なのではない。ただ女性
を輝かせる魔法の重力が、女心を恋の深淵に引き込んでいるのだ。
来生えつこ・たかおコンビの耽美的世界に、艶やかなボーカルが加わり、名曲が
生まれた。

M-15「聖母たちのララバイ」 岩崎宏美
女性が花開くとき、それは恋をしているときと、母として愛を注いでいるときだろう。
特に男性にとって、ときに母性は心を慰め、童心に帰ることが出来る。真の母親は
別格として、恋人であれ妻であれ、男は自分でも気づかないほどに、母性を求めて
いるものだ。甘えられる存在、許してもらえる存在、すべてを委ねられる存在としての
母性。そう、すべての女性がマリアなのだ。
女と男の入り混じった世界に、信じることができるもの。それは、無限のいつくしみに
あふれた母性の姿ではないだろうか。
岩崎宏美の透明なボーカルは、俗世の穢れをさらうように澄みきって、聖母像を見た
思いさえある。女性の恋愛模様を綴ってきた、物語の結末にふさわしい選曲であろう。

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January 25, 2005

Eternal Ballads に寄せて 第3章

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第2章からひと月余り間があきましたが、「Eternal Ballads に寄せて」を再開します。
今回は、甘酸っぱい、青春の物語を3編.。

M-9「DEAR ~コバルトの彼方へ~」 荻野目洋子
青い空、白い砂浜、コバルト色が広がる海。この島を、彼女は目指している。そう、彼に再会するために。
待ちわびる、まだ若い彼は、はやる気持ちを抑えてなお、心が浮き立つようだ。島に降り立った彼女に会っても、まじまじと顔さえ見ることが出来ない。彼は、はにかみながら、ただ彼女の手をとって、誰もいない砂浜へと、彼女を誘う。誰にも邪魔されたくない、ただ二人だけの時間を過ごしたいから。
荻野目洋子の力強いボーカルは、青年のまっすぐな愛情をボーイッシュに表現して、心地よく響いてくる。

M-10「Love Letter」 酒井法子
永い別れ。時にそれは、心を閉ざして鍵をかけてしまうもの。一度鍵がかかれば、どんな言葉も届かない。
失ったものに対する喪失感、悲しみは、容易には消えようとしない。ただ時間だけが、氷が溶けいくように、心の鍵を緩めていける。
言葉は通り過ぎて風化しても、手紙は封を切られるまで、出されたときのまま新鮮だ。鍵が外れ心の扉が再び開くとき、初めて読まれる手紙は、降り積もった時間の分だけ雄弁であり、かつ優しい。ひたひたと心のひだにしみていく。
少女の心情の変わる様を1曲のなかで表現した、尾崎亜美(作詞作曲)の力量を評価したい。

M-11「時に愛は」 松本伊代
恋を知って間もない頃は、恋愛そのものより、恋をしている自分自身に不安になるのだろう。
打ち明けたいと思っていても、心が乱れて、気持ちが定まらない。好きだという気持ちに素直になれたら、どんなに楽だろう。友達のように会話したり冗談を言ったり怒ったり。いや、それだけでは満たされない何かが、心の中にひとつあると、気付いているのに。恋していることを認めること、それは、恋が叶うかどうかの前に超えなければならない、心のなかの高いハードルだ。
松本伊代の声質は、ごく普通の少女の気持ちを代弁するように聞こえて、ひたむきさが伝わってくる。

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December 05, 2004

Eternal Ballads に寄せて 第2章

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女性シンガーの名バラードを集めた「Eternal Ballads」。今回は、結婚に踏み出した女性の心情から始まる。

M-5 「リンダ」 アン・ルイス
結婚式は、一生を、「独身人生」と「既婚人生」に分け隔てる、決別と転生の儀式である。
どんな理想の相手に巡り合えたとしても、それは「独身人生」での出来事。「既婚人生」は、まさにゼロからの旅立ちに他ならない。バージンロードを踏むとき、花嫁は、初めて飛ぶ雛鳥のように臆病なのだ。綺麗な衣装、華美な演出、「独身人生」の知己達、すべて飛び立とうとする彼女を後押しする、道具立てに過ぎない。
そのなかでも、同性の友人からの言葉は、きっと花嫁に、飛び立つ勇気と励ましを与えることができるだろう。
2番の歌詞は英語だが、曲の真髄はこちらの方にある。臆することなく花嫁へのメッセージを解読しよう。

M-6 「部屋とYシャツと私」 平松愛理
結婚することで生まれる寂しさは、幸せの代償なのだろうか。
(専業)主婦にとって、家庭と外(外界)との接点は、ほぼ夫に依存している。夫を失うことは、「部屋にYシャツと私」しか残らないことを、意味するのだ。それは、社会的な死を予感させる不吉なもの。故に、浮気の兆候はわからぬように。本気なら一緒に死のう。天寿のときは見届けて。という願いが湧き出してくる。いずれも、「ひとりにしないで」という切実な叫びだ。
わがままなのではない。降りかかる寂しさの恐怖を、避けようとしているに過ぎないのだ。そのうえで、ふたりでいるかぎり、どんな苦難も平気だという。
語りかける口調とメルヘンチックな伴奏が、甘口のラブソングを彷彿させるが、実のところは、魂の絶唱である。

M-7 「愛・おぼえていますか」 飯島真理
愛する人に、「おぼえていますか」と尋ねるのは、幸せのとき、不安のとき、そして別れのとき。
愛し合っているときに尋ねるのは、心が共にあることを確認するため。愛が冷めたと感じたときに尋ねるのは、このままでいいのか自問するため。そして、愛する人が目の前から消えたあとで尋ねるのは、いとおしい人を、心の中で生き続けさせたいという願い。一度「ひとりぼっち」になった「わたし」が、彼の思い出を胸に、寂しさから抜け出して前に進もうとする姿だ。
だからこの曲は、聴きようによって、幸せのラブソングにも、レクイエムにもなる。
飯島真理のストレートな歌い方が、聴き手の想像をふくらませる。佳曲であろう。

M-8 「ハーフムーン・セレナーデ」 河合奈保子
愛し続けるふたりが離れて暮らすことのせつなさは、互いの想いを知っている分だけ、つよく意識される。
想い募る気持ちは果てしなく心を燃やし、夜風に冷まそうと外に出れば、空に浮かんだ半弦の月。これから満ちるのか、それとも欠けて消え行くのか。運命(さだめ)を占おうにも、月はただ寡黙だ。せめて、愛しい気持ちを伝えて欲しい。こみ上げる涙に、月は中空に滲むだけで、応えない。
長距離恋愛、あるいは不倫…。次に会える日を指折り数える少女の姿。腕の中で強く抱かれたいと願う女性の姿。ふたつの姿を月影に落として、彼女はその日を待ち続ける。
河合奈保子の音域をフルに使ったボーカルは、切なさを込めて次第に力強さを増し、砕けるように終わる。バラード集の中締めとしても、ふさわしい。

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December 02, 2004

Eternal Ballads に寄せて 第1章

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女性シンガーの名バラードを集めた「Eternal Ballads」。そこに広がる女性の恋愛模様を、4パートに分けて紹介してみたい。

M-1 「難破船」 中森明菜
陽は沈んで朝がくる。木は朽ちて森となる。されば、恋は…。
この恋愛の物語は、唐突に恋の終わりから始まる。海のように深く愛したひととの別れは、その海が深く広いほど、衝撃の波は荒ぶれて、嵐のごとく、何度も何度も押し寄せてくる。
そのなかでの「わたし」の存在は、弄ばれるただ1艘の舟だ。「たかが」と強がっていても、いつ果てるともしれない感情の嵐の前には、為す術がない。
中盤の間奏は、吹きすさぶ風、押し寄せる波のように、ストリングスが唸る。サスペンス性を前面に出して印象的だ。

M-2 「木枯らしに抱かれて」 小泉今日子
別れが突然なら、出会いもまた不意にやってくる。
恋の痛手を癒すのは、また恋でしかないという。はじまりは片想いから。ちょっとしたしぐさ。何気ない表情。昨日まで素通りしてなずなのに、なぜこんなにいとおしくなるのだろう。
恋の始まり方は何度目であれ、初恋とかわらない。違うのは、燃え広がる炎の早さか。失ったあとなら、それはなおさら…。
この曲で光るのは鼓動のようなドラムプレイとバグパイプ。恋に踏み出す行進曲(マーチ)のように、彼女を後押しする。

M-3 「恋一夜」 工藤静香
想いがひとつに重なった夜。
心に沸いてくるのは、喜びより、ふたたび失う不安。初恋じゃあるまいし、恋愛を経験すればするほど、幸せは儚く消えゆくものだと知ってしまう。
知っているからこそ、いままさに腕の中に抱かれている「わたしのきもち」に、正直になりたいと思う。いつか失うその時までは…。恋は叶えばこそ、刹那的で、無常の苦しみを与える魔物にもなるのだ。
作曲編曲は後藤次利。恋の深まりに落ちていく姿を、スリリングに演出している。

M-4 「好きにならずにいられない」 岩崎宏美
何度目かの恋が、花を咲かせた。
わたし自身が「好きにならずにいられない」と、恋の魔力にかかったと認めるのは、幸せの光が見えたから。
恋は、心を虜にして自らを生み増やす、ウィルスのようなもの。膨らんでいく恋心は、彼女を光り輝かせるけれど、同時に嫉妬の心も芽生えさせてしまう。「ただ好きでいたい」それだけのため、女性は艶やかさと醜さの二枚の羽をひろげる蝶になるのだろう。これまでとは違う幸せのもとに、飛び立つために。
収録のアカペラバージョンは、岩崎宏美の透明感のあるボーカルが映えて、美しい。


好評なら(笑)次章続きます。

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